ビッグコミックにて連載中の「空母いぶき GREAT GAME」は、前作「空母いぶき」の続編であり、北極海とオホーツク海を舞台に日本とロシアが駆け引きを繰り広げる軍事サスペンスです。
「空母いぶき」は、尖閣諸島をめぐって中国と紛争を繰り広げるという、架空ながらも社会問題としてタイムリーなストーリーで、実写映画化もされたことから話題になりました。
空母いぶきという母艦に搭載された戦闘機や、護衛に奔走する潜水艦の戦いはもちろん、現場で戦う自衛官や、国交問題として難しい決断を迫られる政治家など、様々なヒューマンドラマが描かれました。
異なる立場からの理想や苦悩を描いた世界観は、かわぐちかいじ氏の過去作品「沈黙の艦隊」に通じるものがあります。
現実とファンタジーの絶妙な匙加減、自衛隊に関するリアルな描写など、多くの読者を惹きつけた本作。
連載中の続編の今後の展開に期待が高まる今、漫画「空母いぶき」のネタバレ解説です。
尖閣めぐる日中問題 リアルの社会問題を背負い「空母いぶき」出動
空母いぶき、届いた~😆😆😆
読むの楽しみ~! pic.twitter.com/H200oOZO67— 霜月 蓮 (@ren_illustac2) February 18, 2022
20XX年、遭難を装った中国の工作員が尖閣諸島に上陸 ──。
連載開始当時、現実社会でも中国から領域侵犯を繰り返されていた日本、その対応をめぐり、自衛隊や国防のあり方について様々な声があがっていました。
漫画「空母いぶき」はまさに時事問題を真っ向から取り上げる形で始まります。
中国は「遭難者」を救い出すという名目で日本へ艦隊を差し向け、威嚇行為を行います。
それに対し日本の総理大臣・垂水慶一郎は新型護衛艦「いぶき」を就役させました。
この新型護衛艦は、専守防衛の元で護衛艦と呼ばれていましたが、実際には最新の戦闘機を搭載した空母でした。
この空母いぶき艦長に抜擢されたのが若き航空自衛隊一等空佐、秋津竜太です。
現実には考え難い、空自から海自への抜擢です。秋津の信念は一貫しており、「軍人として日本を守る」すなわち日本を守るためには戦闘することを辞さない、というものでした。
「アジア最強の艦隊を目指す」など、これまで専守防衛に徹底していた日本の自衛隊としては非常にアグレッシブな発言をしており、一部の幹部たちは不安を覚えます。
この若き天才肌、底の知れない風格を持つ秋津のキャラクターは「沈黙の艦隊」主人公、海江田四郎を思い起こさせます。
物語の中で中国軍は尖閣・先島諸島に落下傘部隊を降下させ、島民を人質にして島を占拠します。
自衛隊分屯地も制圧され、自衛隊員に死者が出てしまいます。
この緊急事態の知らせを受け、演習航海中だった空母いぶきを旗艦とする第5護衛艦隊群は直ちに先島諸島奪還へと向かいます。
いぶき艦長の秋津は迷うことなく正当防衛として中国軍へ攻撃することを進言します。
しかし、第5護衛艦隊群司令官・湧井継治は、中国軍との正面衝突を避けるため、ギリギリの段階まで先制攻撃を待つよう指令を出します。
守るために正々堂々と敵を攻撃をし、自国と国民の平和を勝ち取るべきか。
守るための平和国家であることを貫き、犠牲を免れなかったとしても全面戦争という最悪な事態を避けるべきか。
どちらが正解でどちらが間違いか、一つだけの答えはありません。
読者それぞれが持つ感情や理想、信念に、その判断をゆだねられているということです。
そしてそれは、現実世界でも同じことが言えるのかも知れません。
中国からの先制攻撃を、日本の防衛力を高める好機だと考える政治家もいれば、あくまで軍事問題については慎重な姿勢を崩さない政治家もいます。
世論も分かれるであろう領土問題ですが、物語の中では今、目の前に中国軍が攻撃を仕掛けに武器を携えて島へ上陸しています。
つまり、戦場に立つ自衛官たちに理想を主張する時間はないのです。
絶対の正義は存在しない中、あまりに多くの人々の想いが錯綜し、互いに引き合い、火花を散らしながら、少しずつ運命はある方向へ動き始めます。
迫られる選択 ネタバレ!潜水艦vs潜水艦の戦い
そうりゅう型潜水艦⚓️ pic.twitter.com/D6cemZeHaX
— N.W. (@naowata2011) February 12, 2022
「空母いぶき」の世界でも、「沈黙の艦隊」のように潜水艦が活躍します。
潜水艦は国家機密のため国民が目にする機会が少ないですが、海外では内部の見学をさせてくれる国もあります。
頭を低くしないと通れない場所が多く、部屋も通路も非常に狭く、もちろん窓もないため、慣れていないと丸一日過ごすのも厳しいと思われる閉鎖感です。
そんな秘密の鯨のような潜水艦にはミステリアスな魅力を感じるのと同時に、敵側の潜水艦が潜んでいると思うと非常に恐ろしい武器でもあります。
専守防衛を掲げる日本での潜水艦の役割は、主に索敵と情報収集です。
音波により敵の位置を素早く把握することができるのですが、物語の中では先制攻撃を控えるように指示が出され、じりじりとした思いで敵潜水艦と睨み合いになります。
中国との2度目の交渉を控え、交戦が広まることで交渉が不利に展開することを懸念した政府から、先制攻撃をしないようと念を押されます。
敵側が空母いぶきに魚雷を発射し、戦闘の意志を明らかにしている状態で、こちらの手の内を知られる前の潜水艦による攻撃こそ、ダメージを与えるには重要な作戦であると言えます。
最新鋭の潜水艦「けんりゅう」の艦長は、攻撃と防衛の狭間で厳しい選択を迫られていました。
何もしなければ、第5護衛艦隊群がやられてしまいます。
そんな緊迫する現場に現れたのは、日本の潜水艦「せとしお」でした。
「せとしお」は、わざと中国潜水艦「遠征」に体当たりを仕掛け、両艦ともに航行不能にするという作戦を成功させます。
すなわち、魚雷を発射するという攻撃をしかけることなく、戦闘を回避し得る手段を取ったのです。
とは言え、海底で船体に傷をつけては、自らの安全も保障できません。
傷がつき、脆くなった個所から水圧で破損してしまい、最悪の場合沈没する可能性もあるのです。
それでも「せとしお」艦長は、専守防衛の中で出来る、限界ギリギリの方法を選んだのでした。
そんな「せとしお」の想いを汲み取り、「けんりゅう」もそれに応えます。
「遠征」が日本艦隊へ向けて魚雷を発射すると、「けんりゅう」も魚雷を発射し、魚雷同士を相討ちにさせるという神業を繰り出します。
こうして敵を意図的に攻撃することなく、また奇跡的に自国も敵国も死傷者を出さず、日本の潜水艦隊は専守防衛を貫いたのです。
そうして時間稼ぎをしている間に日中の交渉は完全に決裂します。
中国側へ「24時間後に攻撃を開始する」と通告し、撤退するか応戦するかの選択権を与えます。
最後まで両国の犠牲を最小限にするべく考え抜いた様子が伝わってきます。
中国から攻撃開始!空母いぶき ネタバレ まとめ
尖閣・先島諸島島民の人質を分散させるなど、島へ上陸した日本の特殊部隊を警戒する中国部隊。
命がけの物資補給作戦、島民への呼びかけなど緊張のシーンが続きます。
その間にも中国軍は島の基地化を進め、島の領土問題を力づくで決着をつけようとします。
このままでは島は中国の領土であるという既成事実が作られてしまいかねません。
もはや、一刻の猶予もない状況です。
自らの命の危険を顧みず、人命救助のために動くことをためらわない自衛官たち。
国交問題と人名という究極の問題に苦悩し、選択を迫られる首脳陣。
国の危機が迫っているというのに、現場の様子が伝えられないことに苛立つ報道陣。
架空でありながら限りなく現実の社会問題に近い「空母いぶき」の世界は、読者にも外交問題と平和について具体的に考えさせる内容です。
日本は今後どうするべきか?
憲法改正はするべきか否か?
自衛隊のあり方とは?
大切なものを、人を、守るとはいったいどういうことか。
守るために戦うべきなのか?
「空母いぶき」は全13巻、コミックス発売中です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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